さて,今回からは,数回にわたって「持ち家を他人に貸すときの注意点」や,対応策についてお話しします。
以前も,不動産法務の怖さについては以下のコーナーで触れました。
特に,
「転勤の間だけ,自宅を他人に貸し出す」
「親の家を相続したが,自分が住むのはもう少し後。なので,それまで他人に貸し出す」
というケースでは,思わぬ落とし穴にはまることが多いのです。
心当たりのある方は,是非お読み下さい。
さて,当事務所のHPのあちこちで触れていますが,建物の賃貸借契約では,借主が手厚く保護されます。
普通の契約(売買契約など)では,よほど理不尽な内容でもない限り,契約書通りの効力が生じます。
ですが,建物の賃貸借契約では,契約書どおりにいかないことが多いのです。
建物賃貸借契約書で見かける典型的な契約条項例と,実際の有効性は以下のような感じです。
1,「賃貸期間は2年とし,期間が満了したら借主は異議なく退去しないといけない」
→2年を超えても、借主は住み続けることが出来ます。借主がよほど問題を起こしていない限り,2年きっかりで出て行ってもらうことは難しいです。
2,「期間満了により借主が退去するときは,借主は名目のいかんを問わず一切金銭の請求をしない」
→要するに「立ち退き料封じ」ですが,これもあまり意味がありません。
もちろん,借主の方から進んで出て行くのであれば立ち退き料は不要ですが,借主に出て行くつもりがない場合は,契約書に何と書いてあろうと,立ち退き料の提示が必要になります。(というか,立ち退き料を提示しても,出て行ってもらえる保証は全くありません。)
3,「家賃を2ヶ月滞納したときは,家主は即時に賃貸借契約を解除できる」
→これもほぼ無意味と言っていいでしょう。
様々な要素が絡むので一律の説明は出来ませんが,家賃不払いを理由に家主から解除するのであれば,最低3ヶ月分の滞納は必要です。
加えて,即時解除では無く,滞納分の支払を一旦催促して,それでも払ってもらえなかった場合に解除の主張ができるようになります。
以上のように,普通の建物賃貸借契約書では,「こういった条項を埋めておけば,追い出しやすくなるだろう」と思って入れた条項がほとんど機能しません。