弁護士・中小企業診断士の谷田が,中小企業の皆さんを法律・経営両面で支援します。

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ちょっと脇道へ~会社の破産 その2~

2016年08月08日

前回の,会社の破産のついてのお話しの続きです)

 前回お話ししたような感じで他の会社に事業を譲渡し,社長ご自身はその承継先の会社に雇用してもらって引き続きその事業に関わる,ということもありうるでしょう。(その事業について一番理解しているのは社長ご自身ですので,事業譲渡先の会社も元社長を従業員として迎え入れることには積極的なことが多いです。)
 もちろん,経営責任を負うべき社長が,会社の倒産前と同じような待遇で雇用してもらうというのでは,モラルハザードの問題も生じます。そのため,債権者らの理解を得られるような配慮が必要にはなります(例:給料を控えめにしてもらう等)が,自分が育てた事業に引き続き関われるというのは,社長ご自身にとってもメリットがあることと思います。

 以上は,破産会社や社長から見た「倒産会社の事業の存続」でしたが,こういった案件が持ち込まれる裁判所側はどう見ているのでしょうか。
 会社の破産に多数関わってきた経験から感じたことですが,裁判所は経営者の皆さんが思っているよりもずっと「事業の維持・存続」に熱心です。もちろん,「借金だけ踏み倒して,引き続き自分が経営を続けてやろう」などというモラルハザードには裁判所は決して荷担しませんが(そもそも,弁護士にとっても
そんな企みはお断りです),「取引先や従業員に迷惑をかけたくない。自分のためではなく,あくまで関係者のために事業を継続させたい」という経営者の気持ちが伝われば,裁判所はかなり柔軟に対応をしてくれます。

 あくまで他の弁護士が扱った事案ではありますが,こんな事案を見かけました。
 破産申立をした弁護士は当初廃業をイメージしていたのですが,破産申立書を一読した担当裁判官が「これは,従業員達が力を合わせれば,事業を継続できるのではないか?」と言い出し,従業員らへの事業譲渡を推奨したことがありました。最終的に,裁判所に選任された破産管財人の主導下で元従業員達へと事業が引き継がれ,めでたく事業が存続することになりました。
 この裁判官は,大規模裁判所の破産専門部を取り仕切っていたことがあり,破産法の著作も多数書いていたりするなど,倒産法に一家言お持ちの方でした。ですので,あまり一般化できるケースではないのですが,破産を担当する裁判所も可能な限り事業を存続させたがっている,ということの一例といえるでしょう。

 と,破産と事業譲渡を絡めたケースを紹介しましたが,事業譲渡までいかずとも,迷惑をかけない工夫はあります。
 例えば建設会社が仕掛り工事を残したまま破綻した場合,何も手を打たなければ工事は完成できないままになってしまい,注文主に迷惑をかけてしまいます。
 ですが,弁護士に相談をして,仕掛り工事の引き継ぎ先を確保した上で破産申立をすれば,きれいに工事のバトンタッチができるわけです。場合によっては,自社従業員を引き継ぎ先が雇用してくれるということもあるでしょう。

 以上のように,破産手続は確かに「事業をたたむ手続」には違いないのですが,その手続の中で様々な工夫をすることで,自身の関係先に迷惑をかけず,場合によっては新しい事業体が生まれるきっかけになるのです。
 もちろん,法律・会計の両面から裁判所に説得的な説明をしなくてはなりません。
「この事業は存続させる価値がある」「譲渡対象事業の価値からすると,この事業売却価格は適切である」「承継先候補となっている会社は事業の引継先にふさわしい」・・・等,様々な要素について説明を尽くす必要があるわけです。なかなか大変な仕事ですが,それだけに企業側弁護士としてはやりがいのある分野です。

(次回「
ちょっと脇道へ~会社の破産 その3~」に続きます)

※後日追記
自己破産の常設コーナーを設けました。自己破産手続について更に詳しく知りたい方はこちら。
http://www.tanida-lawyer.jp/bankruptcy.php