弁護士・中小企業診断士の谷田が,中小企業の皆さんを法律・経営両面で支援します。

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ちょっと脇道へ~会社の破産 その3~

2016年08月22日

2,経営者個人の破産
 前回までお話ししたのは,倒産する会社の破産手続でした。
 今回は,倒産する会社の社長さん個人の破産手続についてご説明します。

 ほぼ全ての経営者の方は,会社の借入金債務を連帯保証しておられると思います。そのため,会社が破綻すると,金融機関は社長さん個人に対して借入金債務を一括支払するよう請求してきます。当然ながら,会社が払えなかったような負債を個人で払いきれるわけもなく,自己破産を検討することになります。
 ただ,実際には「社長さん個人も破産手続を取った方がどう考えてもいいのに,そうしない」というケースをしばしば見かけます。
破産手続に対する誤解によるものでしょうが,単なる誤解で生活再建を損ねるのはもったいないので,ここでよくみられる誤解について解説していきます。

(1) 破産したら身ぐるみ剥がれる
 フィクション等のせいで一番誤解されている点かと思いますが,実際には生活に必要なある程度の財産は残してもらえます
 地方裁判所ごとに運用は違いますが,例えば宮崎地裁ですと,以下のような感じです。

・ 家財道具は,よほどの贅沢品でない限り取り上げられません。
・ 普通自動車は7年落ち,軽自動車は5年落ちしていれば,基本的に残してもらえます。これより新しい年式のものも,破産管財人(裁判所に任命される監督役弁護士)にかけあって残してもらうことは可能です。
・ 預金や保険契約を残してもらえる目安は各20万円とされているものの,これも破産管財人にかけあって残してもらうことは可能です。現預金・保険解約返戻金の合計額が大体99万円以内であれば残してもらえることが多いです。
・ 自宅不動産は原則として諦めないといけませんが,親戚等が適正価格で買受ける余裕があるのなら,破産管財人はまずそちらへ買取の打診をしてくれることが多いです。そして,買い取ってくれた親戚等と話し合って,いくらか家賃を払って住み続けることもできるでしょう。
・破産手続開始後の収入を取り上げられることはありません。

 このように,自己破産をしても,工夫次第ではそれなりの生活を維持することはできるのです。この点の誤解から,破産を躊躇して債務を放置し,かえって損をする(放置していた債権者が給料を差し押さえてくる,等)ケースも見かけますので,ご注意下さい。

(2) 破産したら戸籍にのる
 さすがに最近はこの誤解は減ってきたようですが,まだたまに聞くデマです。破産しても戸籍には絶対載りません。

(3) 家族の進学や就職に影響が出る

 これも基本的にはあり得ません。
 仮に進学に影響があるとしたら,「破産したことで子供が奨学金を受けるときの連帯保証人になれない」というような,あくまで間接的な影響にとどまります。

 と,こんな感じでしょうか。
 自己破産は,一般に思われているほどのダメージはない,ということが分かって頂けるかと思います。

 個人レベルでは絶対完済できないような高額の保証債務を,毎月5000円~1万円ほど払ってやり過ごしている(政府系の金融機関だと,こういうやり方も許容するようです)方を見かけますが,これは文字通り「一生借金を背負って生きていく」のと同じですし,支払合計額を計算するとむしろ損です。また,このような「内容が曖昧な高額の負債」を整理せずに放置していると,ご本人にもしものことがあったときに,「家族が知らずに負債を相続する」という悲惨な事故が起こりますので,こういう中途半端な対応はやめましょう。

 以上のように,会社の債務だけでなく,保証でかぶった個人の債務も,きっちり整理して平和な生活を取り戻したいものです。

 ちなみに,一昨年ぐらいから「経営者保証に関するガイドライン」が適用されるようになりました。
http://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/
 このガイドラインに沿って対応すれば,自己破産の場合より多くの財産を残しつつ,経営者ご自身の保証債務を整理できます。
 ただ,このガイドラインの対象になる債務はあくまで「保証債務」だけですので,経営者ご自身名義での債務がたくさんある場合(個人名義のカードローンで借入をして,運転資金に窮した会社に貸付をしていた,等)には活用できませんのでご注意下さい。

<最後に>
 弁護士に対する誤解として「弁護士はやたらと破産を勧めたがる。」というものがあります。確かに,弁護士のところに持ち込まれる事案ですと,破産を勧めざるを得ないケースが多いことは事実ですが,弁護士も好きで破産を勧めたりはしません。
 「まずは,私的整理でなんとかできないか」「仮に裁判所を絡めた法的整理になるにしても,可能な限り事業を守れないか」という視点から対応を考えますので,できれば早い段階で相談にお越し頂ければと思います。
弁護士としても,相談に来られた会社が存続できた方が,長期的なお付き合いに繋がるので嬉しいものです。)

※後日追記
自己破産の常設コーナーを設けました。自己破産手続について更に詳しく知りたい方はこちら。
http://www.tanida-lawyer.jp/bankruptcy.php