弁護士・中小企業診断士の谷田が,中小企業の皆さんを法律・経営両面で支援します。

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違約金条項にご注意!

2020年08月10日

 業務多忙により,長らくコラムの更新が途絶えていましたが,ようやく落ち着いてきましたので更新を再開します。
 コロナ禍で中小企業の経営者の皆さんは大変かと思いますが,なんとかこの難局をしのぎましょう。

 さて,今回は,契約書のトラップあるあるの一つ「違約金条項」についてお話をします。普段の業務で,あまりよく読まずに会社の座版・押印を押している契約書には,案外恐ろしい条項が入っていたりするのです。

 違約金条項は,ある程度ボリュームのある契約書には必ずと言っていいほど含まれている条項です。

 たとえば,建設の業界団体が推奨している,工事請負契約書のひな形には,以下のような条項が入っています。

「発注者が受注者に対し損害の賠償を請求する場合の違約金は、契約書に別段の定めのない限り、延滞日数に応じて、請負代金額に対し年十パーセントの割合で計算した額とする。」

 要するに「工事の完成・引き渡しが約束の日より遅れたときは,1年あたり工事代金の10%を違約金として支払いますよ。」という内容です。

 これだけを見ると,「ふーん,工事の引き渡しが遅れたら,違約金を払ってくれるのか。まあ,払ってもらえるというのなら問題ないな。」で終わりのようにみえますが・・・実はそんな優しい条項ではないのです。

 といいますのは,民法上,違約金条項は「賠償額の予定と推定する」とされています。(民法420条3項)
 これだけだとわかりづらいのですが,要するに
「『工事が遅れたときは,違約金とは別に損害賠償請求もできる』という約束をしていない限り,注文主は違約金までしか弁償してもらえない。」
ということになります。

 そのため,仮に工事引き渡しが遅れたことで,注文主が莫大な損害を被ったとしても,この違約金条項を超える損害賠償は原則として請求できません
 上の例ですと,「完工が遅延したせいで,新店舗の開店が遅れて季節外れの開業になり,ハイシーズンの売り上げを逃した。合計3000万円の利益を見込んでいたのに,儲け損ねた。」という場合であっても,この違約金条項のせいで思うように損害賠償請求ができないわけです。

 というか,「1年あたり工事代金の10%」なんて,本当にたかが知れています。実際に注文主が受ける損害と比べたら微々たるもので,この違約金条項が注文主にとっていかに不利なものかがわかります。

 業界団体が用意する契約書ひな形は,その業界側の利益を守ることを目的とした条項も多く含まれていますので,内容も確認せずに押印するのは大変危険です。

 こういった不利な条項は,特約事項欄で修正もできます。他方で,いったん押印してしまうと,そう簡単に不利な条項をひっくり返すことはできません
 取引額の大きい契約や,トラブル発生時の損害が大きくなりそうな契約を締結する際は,事前に弁護士の契約書チェックを入れることをお勧めします。