(前回「債権回収7」の続きです。)
2,事前に設定しておいた抵当権を実行する方法
前回解説したように,債権が焦げ付いてから慌てて相手名義の不動産を差し押さえても,大抵銀行に負けるか,競売で誰も買ってくれないといった事態になり,回収にはつながりません。
ただ,逆の見方をすれば,自社も取引相手の不動産にあらかじめ抵当権を付けておけば,いざ焦げ付いたときに優先的に回収できます。(もちろん,先に銀行の抵当権がついているとそれより優先順位は落ちてしまいますが。)
また,抵当権を付けておけば,いちいち裁判を起こさなくても裁判所で競売にかけられるというメリットもあります。
取引規模や相手との力関係にもよりますが,「今後,比較的金額の大きい取引を継続的にすることになった」という場合は,取引開始の時点で相手方の不動産に抵当権を付けさせてもらった方がいいでしょう。
相手方の経営が健全な時点であれば,抵当権がついていない良好な不動産が残っていることがあります。また,仮に銀行の抵当権が先に付けられていたとしても担保余力が残っていたりします。
仮に担保余力が残っていない不動産であっても,事実上債権回収に役立つこともあります。
といいますのは,抵当権付の不動産を(競売ではなく,普通の取引で)売るとなると,付いている抵当権を全部消さないといけません。不動産を買う側にしてみれば,いつ競売にかけられるか分からない不動産なんて買いたくありませんから,当然ですね。
そしてその場合,不動産所有者が一方的に抵当権を消すことはできず,全部の抵当権者と「??円払うのと引換えに抵当権を消してもらう」といった感じで話をつけないといけません。
こういった売り方を「任意売却」といったりしますが,この場合,裁判所の競売だったら一円も回ってこない下位順位抵当権者にもいくらか払ってもらえるのです。(いわゆる「ハンコ代」というものです)
もちろん,裁判所の競売に移行してしまうと一円も回ってこない弱い立場ですから,大した金額は提示してもらえないでしょうが,それでも0円で終わるよりはずっといいですね。
不動産の処分は,競売では売却価格が低額になりやすいことや手続に時間がかかることもあって,大半は任意売却で済まされることが多いです。たとえ破産した人・会社の不動産でも,それが買い手が付きそうなものであれば,競売ではなく任意売却で処理されるのが通常です。
抵当権登記の費用との兼ね合いもありますので,なんでもかんでも抵当権をつければいいというものではありません(本県で多くを占める「農地」「山林」は避けた方がいいでしょう)。
ですが,売れそうな不動産であれば,たとえ銀行より下の順位でも抵当権をつける価値はあるということはお分かり頂けたかと思います。
不動産からの債権回収については以上です。次回は,銀行預金の差し押さえについて解説します。