今回は,「雇用契約書を取り交わす際の注意点」について解説します。ちょうど,「中小企業の労務管理 ~よくある問題点1~」に対応する解説になります。
さて,労働者の雇用形態には様々なものがありますが,ここではあえて「期限の定めがあるパートタイマー」のための雇用契約書に絞って解説します。パートタイマー雇用契約書のひな形も本コーナー末尾でアップロードしていますので,適宜修正してご活用下さい。
「なぜ正社員ではなく,パートタイマーの雇用契約書について解説するのか?」ですが・・・パートタイマーの雇用契約の方が,契約書で個別にコントロールすべき要素が多い(雇用期間,賃金,就労時間帯など)ことによります。
正社員の雇用条件のコントロールは,どちらかというと就業規則によるところが大きいので,次回以降に譲ります。
以下,「雇用契約書の内容で気をつけたい点」「雇用契約書の運用で気をつけたい点」に分けてご説明をします。
<雇用契約書の内容>
この記事末尾にリンクを貼った書式で基本的には大丈夫です。
数点補足しますと・・・
1,シフト制を採用する場合
特に飲食店等で多いかと思いますが,シフト制を採用している場合,勤務時間帯や休日を事前に固定させることができません。
とはいえ,労働基準法上は,始業時間や就業時間,休日について労働者にきちんと伝えた上で雇用契約を締結しないといけない,とされています。ですので,勤務時間帯や休日について単に「シフト制による」とだけ書いて済ませるのは違法の恐れがあります。
この点はなかなか悩ましいところですが,せめて「勤務時間:午前9時~午後7時の間の3時間から5時間程度。シフト制による」「休日:週2日。シフト制による」「シフト表は,前月20日までに,当月1ヶ月分を会社から従業員へ通知する」といった感じで,なるべく労働者側が勤務日・勤務時間帯を予測できるような記載をして対応しましょう。
なお,(パートタイマーでは少ないと思いますが)1日の労働時間が8時間を超えてしまう場合,雇用契約書だけでは対応できません。その場合は,就業規則に「変形労働時間制」を盛り込む必要が出てきます。この「変形労働時間制」については,次回以降解説します。
2,雇用期間はどうする?
パートタイマーの雇用期間ですが,まだ従業員の資質・性格が分からない段階では,半年程度とするのが無難でしょう。実際に働いてもらって有望な人材だと思えば,更新時に改善した雇用条件を提示して,長く働いてもらえるような工夫をすればいいわけです。
3,労働条件の通知は?
労働基準法(と,パートタイム労働法)では,雇用契約締結時に,会社が労働者に対して労働条件等を書面で通知しないといけない,とされています。ここで通知が義務づけられている事項はかなり多岐にわたるのですが,今回ご紹介した雇用契約書にはこれらが全て盛り込んでありますので,別途労働条件通知書を交付する必要はありません。ご安心ください。
<雇用契約書の運用>
以上のような感じで,従業員毎に合った雇用契約書を作ってお互いサインをし,会社・従業員各1通ずつ持ち合うことになります。
運用面で気をつけることは一つ,「更新手続をめんどくさがらないこと」です。
雇用契約書に書かれた雇用期間が満了しそうになったら,ちゃんと従業員とお話をして,「勤務評価」「会社の状況」等を説明し,会社としてはどのような判断で契約更改をしようとしているのか分かってもらった上で,新しい雇用契約書を結び直すのです。もちろん,新しく結び直す雇用契約においては,その従業員の評価を盛り込むのもいいでしょう。(頑張っている従業員の待遇を上げる,その逆も然り)
これをやっておかないと,漫然と雇用契約の更新が繰り返されていたということで,後日契約更新を断りたいときに足かせになってしまいます。
いかがだったでしょうか?
パートタイマーとの雇用契約は,かなり軽視していた経営者の方も多いのではないでしょうか?今回お付けする書式を参考に,できるところから体制を固めていきましょう。
さて,次回は正社員を規律するのに重要な就業規則の解説に移ります。「中小企業の労務管理 ~就業規則1~」へ。
なお,以下のリンク先では,会社の労務管理(トラブル発生前・発生後両方)について掘り下げて解説をしています。会社の総務担当者様にとっても有益な情報を掲載しておりますので,是非ご参照下さい。
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世間で思われているより,顧問弁護士の費用はずっと低廉ですので,選択肢の一つとして頂けますと幸いです。
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