弁護士・中小企業診断士の谷田が,中小企業の皆さんを法律・経営両面で支援します。

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債権回収14~究極の予防法・対事業者~

2018年04月09日

 前回は,個人の取引相手に対して後払いを認めるのは避けた方がいい,というお話しをしました。
 債権回収シリーズの最終回である今回は,事業者
(個人事業主・会社両方含む)と取引する際のリスク回避方法を中心にご説明して,締めくくりとしたいと思います。

 さて,事業者が相手であっても,少額取引の場合の留意点は対個人と大差ありません。「前払を徹底する」「回収不能のリスクを負わないような決済方法を導入する」のがよいでしょう。

 ですが,BtoBの取引では「比較的高額の取引を継続的に行う」ことが多いかと思います。こうなると,前払にはなじみませんし,利用枠の関係でクレジットカード決済にも無理があります。
 そうなると,一番大事なのは「信用できない」「支払能力に不安がある」ところとは,最初から付き合わないのが一番,ということになります。

 経営者の間では
「あそこの会社は年商??億円もあって大きいところだから信用できる」「ウチの年商はここ数年で??億円伸びた」といったふうに,会社の規模・信用を測る尺度として「利益」ではなく「売上」に着目する風潮があります。そのため,「売上高を伸ばす」こと自体が目的になってしまって,得意先の選別が二の次になっている企業様をしばしば見かけますが,これは大変危険な傾向です。

 新しい取引先と付き合う出だしから「なんだかこの取引先はだらしないな。」「大丈夫かな・・・?」と違和感を感じたら,早いところフェードアウトした方がいいでしょう。仮に取引をするにしても,取引額や支払サイトを絞るなどして自衛したいところです。
 これとは別に,長年の取引先にしても,支払いが滞りがちになってきたら,(心情的には心苦しいですが)取引規模を少しずつ縮小する等していざというときの被害を抑えたいところです。

 また,相手との力関係にもよるので,活用できる場面は限られてくるかと思いますが「保証金を一定額預けてもらう」「相手の不動産について根抵当権の設定を受ける」のも自衛策としては有効です。
 前者であれば,裁判を起こさずに「焦げ付いた債権と,預かっている保証金を相殺します」と通知するだけで,実質債権回収が完了します。
 後者のメリット・デメリットは以前お話ししたとおりです。
 
 さて,ここまでお読みになった方は「債権の証拠化とか,差押財産の調査とか長々と説明されたけど,あまり役に立たないのでは?」「結局,危なそうな所とは付き合うな,というだけのことでしょ?」と思われたかも知れません。

 ですが,「債権の証拠化」「差押財産の調査」も決して無駄にはなりません。良好な取引先を選別したつもりでも,焦げ付く取引先はいずれ出てきます。相手方が信用できるかどうかなんてすぐには見抜けませんし,経営状況も時間が経つにつれて変動していきますので,これは避けようがないことなのです。

 いざ焦げ付いたとき,「契約書等の証拠をきっちり残していて,相手方にどういう財産があるかも把握している」と,交渉の段階で素直に分割払いに応じてくれることも多いものです。裁判を起こされるのが好きな会社なんていませんし,勝ち目がないとなればなおさらです。
 また,仮に交渉に応じてくれず,裁判を起こすことになっても,証拠を事前に固めておけば,裁判の中で早期に降参してくることも多いです。(無茶な言い分で悪あがきをしそうなアクの強い取引先は,取引開始時点で注意して観察していれば判別がつくでしょう。前々回にご紹介した「無茶な言い分で2年裁判を引っ張った相手」は,数分話しただけで「この人は絶対揉める」オーラが出まくっている人でした。どうしてこんな人と取引する気になったのやら・・・)

 逆説的ですが,差押えに役立つ「債権の証拠化」「差し押さえられる相手の財産の調査」は,差押えまでもつれ込まずに済ませるという効果もあるわけです。
 割に合わない債権回収につき合わされないためにも,日ごろから取引相手を慎重に選びつつ,「債権の証拠化」「相手方の財産調査」も心がけて頂きたく思います。