弁護士・中小企業診断士の谷田が,中小企業の皆さんを法律・経営両面で支援します。

blog

債権回収9~何を差し押さえる? 銀行預金編~

2018年01月29日

 前回・前々回は,不動産を差し押さえて債権回収する方法について解説しました。
 とはいえ,相手名義の不動産を競売にかけて回収するとなると,競売手続だけで軽く半年以上はかかってしまいます。
 そこで,今回以降はもう少しお手軽な債権回収方法を扱っていきます。
まずは,相手名義の預金口座を差し押さえる場合について説明します。普通の取引相手なら,預金口座はほぼ確実に持っているでしょうから,とても汎用性の高い差押財産といえます。

 なお,預金口座は,不動産と違って「事前に担保に入れてもらう」ということができません。ですので,預金口座を差し押さえるのであれば,裁判を起こして判決をもらう必要があります。(不動産のように「事前に抵当権をつける」ようなことは,預金口座ではできないわけです)

 まず,裁判所に相手方の預金の差押を申請します。これが認められると,裁判所が銀行へ「あなたの銀行にあるAさんの預金口座は差し押さえられました。今後,Aさんが預金を下ろしに来ても,応じてはいけませんよ。」と通知してくれます。
 銀行はこの裁判所の命令にきちんと従ってくれますので,以後相手方は差し押さえられた預金を下ろせなくなります。そして,一定の日数が経過すれば,銀行に頼んで差し押さえた預金残高を直接払ってもらうこともできます
 「二束三文でしか売れない動産」「買い手がつくかどうか分からない不動産」と違い,銀行に直接お金を払ってもらえるわけですから,回収の安定度は段違いです。
 こういうこともあって,我々弁護士は真っ先に「さて,相手方はどこに預金口座を持っているかな?」と考えるわけです。

 ここまで書くと,「預金差押えってすごいなあ。」となりそうですが・・・やはりそう都合良くはいかないものでして・・・いくつかデメリットはあります。

 まず,少なくとも「差し押さえたい預金口座のある銀行・支店を特定しないといけない」ということです。銀行名と支店を特定せずに裁判所へ申請しても,受け付けてもらえません。
 ただ,このデメリットは案外何とかなります。普段の付き合いの中でそれとなく取引先金融機関のことは伝わってきますし,どうしてもわからなければ当てずっぽうで差押えをすれば、案外当たるのです。(特に、宮崎の場合ですと,会社の取引銀行は2大地銀に集中していますので,かなりの確率でヒットします。最近は鹿児島銀行さんのシェアも増えてきていますが・・・)
 いずれにしても,取引相手がどこの銀行・支店に預金口座を持っているのかは,平常時からきちんと情報を仕入れておきたいところです。

 もう一つのデメリットがちょっと厄介なのですが・・・相手方が同じ銀行から借金をしていた場合は差押えができないということです。
 この場合に差押えをしようとしても,銀行からは「今回裁判所から,Aさんの預金を差し押さえたという通知が当行に来ました。ですが,当行はAさんにお金を貸しています。Aさんの預金は,当行の貸付金と相殺する予定ですので,あなたにお支払いするお金はありません。」といった回答が返ってきます。(要するに,銀行は自行の貸付金回収を優先するというわけです。)
 ですので,相手方のメインバンクを狙っても大抵失敗に終わります。

 狙うのは,あくまで「相手方が預金口座を持っているけれど,借金はしていない銀行」の口座となります。この辺の情報も,平常時から意識しておくと,債権回収の成功率はグンと上がります。

 預金の差押えについては以上です。相手方の業種・属性問わず共通して狙っていける財産ですので,何よりも優先してチェックして頂きたいと思います。