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住宅手当と社宅,どちらでいく?

2017年07月31日

 さて,今回は少しニッチな話題になります。ですが,従業員の福利厚生というものを考えると,避けては通れないテーマになります。
 まだ導入を検討されていない企業様も「ああ,谷田がそんなことを言っていたなあ」くらいでいいので,頭の片隅に留めておいて頂けますと助かります。

 従業員に対して,住宅についての福利厚生を整備するとなると,「住宅手当」「社宅制度」あたりが思い浮かぶのではないでしょうか。
 そして,この二つの単語でネット検索をすると,たいてい

「住宅手当だと,従業員の給料が増えたのと同じ扱いになってしまう。そのため,従業員の払う税金や社会保険料が増えてしまってかわいそう」
「また,会社にとっても,社会保険料の使用者負担分が増えてしまうので不便」

という論調の記事がたくさん引っかかると思います。

 確かに,税務面だけを捉えれば,社宅>住宅手当ということになりそうです。
 ですが,ネット上の情報をざっと見た感じでは,社宅の致命的なデメリット・リスクにきっちり触れている記事は少ないように思います。

 中小企業の場合,「社宅」というと,「会社名義で賃貸物件を借上げて,そこに従業員を住まわせてあげる」という,いわゆる「借上げ社宅」を採用することになるかと思います。(「集合住宅1棟を自社保有し,各部屋に従業員を住まわせる」という自社寮は,財務面で大きなリスクとなりますので,
多くの中小企業には厳しいかと。)

 ですが,会社名義で賃貸物件を借りるとなると,賃貸借契約から発生する様々なリスク・コストを一旦会社が負う,ということになります。

 例えば,退職した従業員が,その借上げ社宅に居座ってしまうと,その間の賃料は会社に請求されてしまいます
 「一旦会社が立て替えて,後で退職した従業員に請求すれば良いのでは?」と思うかも知れませんが,退職した従業員が素直に払ってくれるとは限りません。(というか,退職したのに借上げ社宅に居座るような従業員ですと,「素直に払ってくれない」「なかなか出て行かない」のが普通でしょう。)
 「従業員への未払給料と,居座られた間の滞納家賃を相殺する」という,いわゆる給料天引きは違法となることもあって,こういったケースでの回収は極めて困難となります。
(給料天引きの禁止については,こちらの記事もご参照下さい。)

 また,従業員が借上げ社宅を傷つけたり,あるいは早期(例:1年以内)に社宅を出たせいで敷金没収を受けたりした場合,こういった不利益を会社・従業員がそれぞれ何円ずつ負担するのかをめぐってトラブルのもとになります。

 これらのリスクは,住宅手当にはありません。
 住宅手当なら,従業員にお金を払うだけなので,こういった「賃貸借契約について責任を負う」という危険はないわけです。
 そう考えると,社宅制度が住宅手当よりも優れているとは必ずしも言えないところがあります。

 もちろん,税制上のメリットは捨てがたいですし,「社宅による費用を誰が負担するか」については借上げ社宅の規程を整備することである程度はコントロールできます
 借上げ社宅制度のリスクをきちんと理解した上で制度を整備すれば,有用な人材のスカウトにも役立つ制度になりえますので,仮に導入するのであれば,弁護士に相談をした上で規程・運用を整備したいところです。

 当事務所は,顧問先様に「社宅制度の整備・規則の立案」も担当したことがあります。顧問契約(以下のリンク先参照)を締結すると,とても低廉な費用でこういった制度の整備もできますので,お勧めです。


 そのほか,社宅関係のトラブルは,ほぼ例外なく労務トラブルとセットです。
 労務問題についてお困りの経営者様・総務担当者様は,以下のリンク先の情報が役に立ちます。