弁護士・中小企業診断士の谷田が,中小企業の皆さんを法律・経営両面で支援します。

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中小企業の労務管理 ~固定残業手当3~

2017年01月30日

(前回「中小企業の労務管理 ~固定残業手当2~」の続きです。)

4,固定残業手当の金額設定に気をつける

 固定残業手当の割合があまりに高すぎると,「この会社は一体何時間残業させるつもりなんだ?」となり,固定残業手当制度自体が否定されるおそれがあります。
 例えば・・・「基本給:20万円 固定残業手当:15万円」という賃金体系があったとしましょう。この賃金体系ですと,固定残業手当は100時間超の残業代に相当することになります。このような長時間残業を前提にした賃金体系は訴訟等では到底通用しないでしょう。

 では,残業何時間分くらいの固定残業手当ならセーフなのか・・・ですが,これは一概にはいえないところです。
 ただ,厚生労働大臣の告示では,月間の時間外労働は45時間以内に押さえることが望ましいとされていますので,この辺が一つの目安になるのかなと思われます。
 45時間を超える固定残業手当の設定が直ちに違法・無効になるとは思えませんが,60時間分を超えると厳しくなってくると思います。

 いかがだったでしょうか。
 実務では様々な場面で見かけるこの「固定残業手当」ですが,こうやって運用方法を確認していくと「結構めんどくさい」「案外使えない」ということがわかるのではないでしょうか。
 対象従業員の残業時間がコンスタントに月40時間以内に収まっているようなケースでも無い限り,ほとんど導入のメリットはないと言っていいかと思います。(残業時間にムラがあると,所定の残業時間を超えていないかチェックするハメになりますので,「残業代の計算を省略できる」というメリットは消えます)

 固定残業手当制度を導入する実際の動機は,「求人票に基本給だけを明示すると人が集まらない。見た目の支給額を少しでも良く見せるために固定残業手当を設定・掲載する」といったところかと思います。
 しかし,この「求人票記載の条件を少しでもよく見せるため」という動機自体,少々危険です。ブラック企業という言葉ができて久しいですが,最近では「ブラック求人(=求人票に,実際より良い待遇を書いて求人を集める手法)」という言葉も使われ始めており,固定残業手当を巡るトラブルはブラック求人の代表選手のように扱われ始めています。そして,ハローワークも求人票における固定残業手当の記載については(裁判所以上に)厳しく指導するようになってきています。

 中小企業の求人が思うように行かないという事情は分かるのですが,目先の求人を急ぐあまり労使紛争や企業の評判低下を招いてしまっては本末転倒です。ここまで様々な解説を加えておきながら何ですが,固定残業手当については今後利用を控えた方が安全でしょう。