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中小企業の労務管理 ~労働時間の把握・管理2~

2016年12月19日

(前回「中小企業の労務管理 ~労働時間の把握・管理1~」の続きです。)

 タイムレコーダーの運用面の注意点については,「従業員側の問題」「会社側の問題」に分けると,以下のようになります。


(1) 従業員側の問題

 従業員側が原因となって生じるタイムレコーダー関連のトラブルとして,不正打刻の問題があります。同僚に代わりにタイムカードを打刻してもらうというのが典型例です。

 「欠勤しているのに,同僚に出退勤の代理打刻してもらう」という悪質な手口から「遅刻しそうなので出勤の代理打刻をしてもらう」という比較的軽微なもの(とはいえ,許されるものではありませんが)まで,様々なケースが考えられます。

 この代理打刻への対策としては,本人認証機能を備えたタイムレコーダーの導入が手っ取り早いでしょう。

 指紋認証システムを含む凝ったものから,顔写真を撮影する簡便なもの(こちらは割と低料金)まで,様々なサービスが出回っています。(それだけ不正打刻の問題に悩む会社が多いということの裏返しなのですが・・・)コストと使い勝手を比較して,自社に合ったシステムを選びましょう。

 仮に不正打刻が発覚した場合は,「打刻を依頼した従業員」「代理打刻を引き受けた従業員」両方について,悪質さに応じた懲戒処分も検討すべきです。


 また,不正打刻とまではいかずとも,会社にとって不利益な慣習(終業時刻後,従業員らがたばこを吸ったり雑談をしたりした後でタイムカードを打刻する,等)があれば,早急に社内文書で周知するなどしてやめさせましょう

 これを漫然と放置すると,「タイムカード打刻前の無駄時間の存在」を会社側が事実上立証するハメになりますが,この立証はかなり大変です。 それほど,タイムカードの記録は重視されるのです。


 その他,タイムカードの打刻忘れが多い従業員に頭を悩まされる会社も多いかと思いますが,打刻忘れの部分については速やかに補充させて,「打刻忘れがあったので後で補充した」ということが分かるように記録化しておきましょう。


(2) 会社側の問題

 「従業員側の問題」の裏返しといえるのですが,「始業時刻のタイムカード打刻をさせる前」「終業時刻のタイムカード打刻をさせた後」「休憩時間」に労働させないよう意識しましょう。単に「仕事を振らない」だけでなく,「仕事をしようとしている従業員を制止する」といった積極的な行動も含めて徹底したいところです。

 「タイムカード上の労働時間以外に労働していたこと」は,労働者側が立証責任を負うのですが,それをいいことに「就業のタイムカードを打刻させた後で更に仕事をさせる」というのはコンプライアンス上好ましいことではありません。

 また,仮に労働者が「タイムカード上の労働時間以外に労働していたこと」の証明に成功しますと,裁判官に「この会社の労働時間管理の姿勢は悪質だ。」「タイムレコーダーを悪用して賃金を払い渋っている。」とみなされ,未払残業代だけでなく付加金(要するに,制裁金)の支払まで命じられることもあります

 いずれにしても,会社側はタイムレコーダーを正直に運用するべきです。


 労働時間の管理については他にも様々な問題点・注意点があるのですが,今回解説した範囲だけでも心がけると、だいぶ安定するのではないかと思います。

 今回は,労働時間の管理について主に「賃金計算」「残業代」を意識した解説をしましたが,労働時間は従業員の健康にも密接に関わってくる事項でもありますので,可能な限り正確に把握できるような体制を整えましょう。


 次回「中小企業の労務管理 ~固定残業手当1~」に続きます。


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