弁護士・中小企業診断士の谷田が,中小企業の皆さんを法律・経営両面で支援します。

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中小企業の労務管理 ~就業規則2~

2016年11月21日

(前回「中小企業の労務管理 ~就業規則1~」の続きです)

3,「就業規則に定めないとできないこと」を理解する

 就業規則の記載事項の中には,「就業規則の中に明記しておかないと,有効に運用できない制度」がいくつかあります。「変形労働時間制」や「懲戒制度」がこれにあたります。どちらも重要な制度です。

(1) 変形労働時間制
 普通,労働時間は「1日8時間」「1週間40時間」までと決まっていますが,業種によっては「忙しい曜日の労働時間を増やして,お客さんの少ない曜日の労働時間を減らしたい」「忙しい季節の労働時間を増やして,閑散期の労働時間を減らしたい」という要望があります。
 こういった要望に答えるべく「変形時間労働制」という制度が用意されており,週平均40時間の労働時間になるのなら,特定の曜日や時期に
「1日8時間」「1週間40時間」を超えて労働させてもいい(=多少労働時間にムラを付けてもいい)という制度です。
 そして,この「変形労働時間制」は,労働者の生活に与える影響が大きいということもあって,就業規則等で明記しないといけない,とされています。

 ですが,就業規則のひな形の中には,「変形労働時間制」のフォローがされていないものがあったり,自社の業務態様に合っていない内容になっていたりすることが多いです。そのため,自社の業務態様(曜日や季節ごとの繁忙)を検討した上で,変形労働時間制を設計する必要があります。変形労働時間制をきちんと設計するのとそうでないのとで,割増賃金の支払額がだいぶ変わってきます(きちんと制度設計しておけば,8時間を超えた日についても割増賃金は不要になります)。
 変則的な労働時間を実施している企業の方は,就業規則の規定に気をつけて頂きたいところです。

(2) 懲戒制度
 懲戒制度は,「企業のルールに違反した従業員を,会社が処罰すること」です。そして,会社が従業員に懲戒処分を行うに当たっては,就業規則等で「何をしたらいけないのか」「どんな罰を受けるのか」についてきちんと明記しておかないといけないとされています。

 就業規則に懲戒処分の内容を明記しておかないと,有効な懲戒処分ができません。どんなに態度の悪い従業員がいても、始末書一つ書かせることもできないというわけです。これでは,真面目な従業員の士気が著しく下がってしまいます。企業秩序・従業員の士気を守るために,懲戒制度は不可欠です

 また,後日「問題のある従業員を解雇する際の注意点」についても解説を行う予定ですが,解雇する前提としても懲戒処分は重要です。懲戒処分を全然受けていない従業員を一発で解雇する,というのはとてもハードルが高く,解雇に確実を期すのであれば懲戒処分を重ねた上で行うことになります
 この「解雇の前提」として機能させるためにも,懲戒制度をきちんと整備しておく必要があります。特に,懲戒事由については,懲戒処分のレベル(譴責,減給,出勤停止,懲戒解雇等)に応じて,想定できる限り具体的に定めておく必要があります

4,他にも,近時は精神疾患系の私傷病休職が増加していることから,この点に関する就業規則上の手当が必要だったりと,就業規則の記載に関する注意点については枚挙にいとまありません。
就業規則の条文における細かい記載の仕方次第で,労務上のトラブルを防いだり,逆に大ダメージを受けることがあるのです。

 就業規則については「事業所の従業員が10人以上になったら備えないといけないそうだから,一応作って備えて付けておくか」「内容についてはよく分からないけれど,まあ拾ってきた書式で大丈夫だろう」といった意識の中小企業も多いかと思います。
 ですが,就業規則はそのまま労働者との契約内容になり,ひいては自社の強みor弱みになっていきます
 会社の長期的な発展・存続のため,これを機会に就業規則の内容をじっくり固めてみるのはいかがでしょうか。